ポリオの初診日をもってPPSによる障害の発生原因となった傷病の初診日とみるのが妥当であるか

2 以上に認定したところに基づいて、本件の問題点について判断する。
(1) 前記1の(9)で認定したようなPPSの診断基準及び請求人の障害の発生、増悪の経緯からすると、請求人の本件裁定請求当時の症状は、ポリオの罹患肢でない左下肢に生じているもののみならず、罹患肢である右下肢の障害を増悪させているものも、PPSによるものと見るのが相当である。そうして、前記1の(3)ないし(8)で認定したような請求人の症状の進行状況及びこれに関するJ医師の見解に徴すると、請求人のPPSは、平成8年当時から徐々に進行したもので、平成9年7月7日がその初診日に当たるものと認めることができる。
 ポリオとPPSとの関係を同一傷病とみるか別傷病とみるかは、PPSの発生機序が解明されていないこともあって、にわかに決しがたい問題であるが、これを別傷病とみるとしても、両者の間には発生機序の点からみて密接な関係があると考えられるから、互いに相当因果関係に立つ傷病とみるのが妥当である。通常、二つの傷病がこのような関係にある場合、これによる障害給付の受給権の存否を決する基準となる初診日は、最初に発生した傷病の初診日であるが、一般にポリオの発症とPPSの発症との間に前記のような大きな時間的間隔が存し、その後に従前の障害の状態とは程度、態様、部位において時として著しく異なる障害が発生するところから、ポリオの初診日をもってPPSによる障害の発生原因となった傷病の初診日とみるのが妥当であるかどうかが問題になる。
 請求人は、ポリオ罹患後、前記のPPSの初診日まで45年以上にわたり、右下肢に軽度の障害を残しながらも、その障害の状態は安定し、これに対して格別の治療を施す必要もなかったものであり、特に昭和49年に就職してからの20年余りは、厚生年金保険の被保険者として健常人と変わりのない生活を送ってきたものである(神経細胞の疲弊・脱失、筋肉の変性等のPPSの発生因子は、時間の経過とともに徐々に蓄積されるものであるにせよ、そのことは、一般的に見られる症状の経年的変化のように、症状自体が次第に増悪して行く状況とは趣きを異にするというべきである。)。ポリオの原症状とPPSによる症状との間に存するこのような顕著な非連続性に照らせば、請求人に対して、当該傷病の発生が45年余り前の疾患に由来すること、その間において当該疾患による障害が完全に消滅していたわけでないことを理由として、厚生年金保険上の障害給付の支給を拒むことは、相互扶助と社会的連帯を根底とする同制度の趣旨及び衡平の理念に照らして著しく妥当を欠くものといわなければならない。したがって、本件においては、PPSの初診日である平成9年7月7日をもって初診日とするのが相当である。